ヘリコバクター・ピロリ菌とは
日本では幼小児期に感染するケースが多く、感染ルートは主に家庭内感染です。
近年では公衆衛生の改善によって感染者数は人口の35%程度まで減少しています。
ヘリコバクター・ピロリ学会ガイドラインでは、ピロリ菌に関連する疾患として、ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、胃過形成性ポリープ、機能性ディスペプシア(ピロリ関連ディスペプシア)、胃食道逆流症、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、鉄欠乏性貧血が挙げられています。いずれの疾患についてもピロリ菌の除菌を強く推奨しています。
ピロリ菌感染の有無は、胃カメラ検査時に組織採取を行って調べる方法や、呼気を採取して調べる方法などによって確認します。検査でピロリ菌感染が陽性になった場合は、除菌治療をおすすめします。
除菌治療は、抗生物質2種類と胃酸分泌抑制薬を1週間服用することで可能となります。当院では、ピロリ菌の感染検査と除菌治療に対応しており、除菌治療に失敗した場合でも抗生物質を変更して行う2回目の除菌治療が可能です。
ヘリコバクター・ピロリ菌の感染はどこから?
ヘリコバクター・ピロリ菌の主な感染経路は、家族間の経口感染であると考えられています。 乳幼児期に口移しなどによって食事を与えるような行為が原因である場合、若年層でもピロリ菌に感染している方がいらっしゃいます。 ご家族やご兄弟にピロリ菌の感染者がおられる方は、ご自身の感染の有無を把握するため、早めに検査を受けてください。 検査をご希望の場合は、当院までお越しください。
1)Rowland M et al. Gastroenterology 2006 ; 130 : 65-72
2)Konno M et al. J Clin Microbiol 2005 ; 43 : 2246-2250
このような方はヘリコバクター・ピロリ菌検査をしましょう
以下のような症状に当てはまる方は、ピロリ菌に感染している可能性がありますので、一度検査を受診ください。
- 胸やけや胃もたれが起こる
- 胃潰瘍や十二指腸潰瘍の経験あり
- 食欲不振
- 空腹時や食事中に胃が痛む
- 胃炎と診断された経験あり
- ご家族で胃がんを発症された方がいる
- 親や兄弟がピロリ菌陽性と判定された など
ヘリコバクター・ピロリ菌の関わる疾患
- 胃がん
- 胃・十二指腸潰瘍
- 胃過形成性ポリープ
- 胃MALTリンパ腫
- 特発性血小板減少性紫斑病(ITP)
- 萎縮性胃炎
- 鉄欠乏性貧血
- 慢性蕁麻疹
ピロリ菌感染検査と保険適用
ピロリ菌検査が保険適用の対象となるには、以下の条件を満たす必要があります。
- 医師の診断によって慢性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍などの指定の疾患と判定されること
- 胃カメラ検査を受診して実際にピロリ菌の感染が確認されること
したがって、胃カメラ検査を受診することなくピロリ菌の検査を受けたり、除菌治療だけを受けたりしたいという場合は、検査・治療費が全額自己負担となりますので、あらかじめご了承ください。
半年以内に胃カメラ検査(人間ドックなど)を受けている方へ
半年以内に胃カメラ検査を受診して医師から慢性胃炎の診断を受けている場合には、ピロリ菌検査の費用が保険適用されます。
その時の検査で陽性になった場合は除菌治療も保険適用の対象となります。
ピロリ菌感染検査
ピロリ菌の感染有無を確認する検査には、胃カメラ検査の際に胃の組織の一部を採取して調べる方法と、それ以外の検査方法に分かれます。また除菌治療を保険適用の対象とするには、胃カメラ検査による確定診断 を行うことが必要になります。
当院では、患者様の症状の状況により最適な検査方法を採用しており、1種類または2種類のピロリ菌検査方法を用いて診断します。
胃カメラ検査で行う検査
※胃薬を服用中ですと、検査の精度に影響が出るため実施できません
※抗血栓薬を2種類以上服用中の場合は、生検時に出血が止まりにくくなるため、実施できません
迅速ウレアーゼ試験
ピロリ菌はウレアーゼという酵素を作り出して周囲の尿素をアンモニアに変えて胃酸を中和し、胃の中に感染し続ける性質があります。この検査では胃から粘液を採取して特殊な反応液に浸し、反応液の色の変化からピロリ菌の有無を判定します。
鏡検法
胃カメラ検査時に採取した胃の組織をホルマリンで固定して、ピロリ菌の有無を顕微鏡による検査で確認します。
培養法、薬剤感受性検査
胃カメラ検査時に採取した胃の組織を培養し、ピロリ菌の有無を確認します。検査結果が得られるのに1週間程度かかります。
胃カメラ検査以外で行う検査
尿素呼気試験(UBT)
患者様の呼気(吐く息)を採取して行う検査で、ピロリ菌感染検査の中でも最も高い精度で結果を得られる検査です。患者様に専用の検査薬を服用いただき、その後に吐き出された息を検査してピロリ菌の有無を確認します。
抗体測定法
ピロリ菌に感染することで体内に作られる抗体を検査する方法です。この検査では血液検査によって、ピロリ菌で作られた抗体の有無を調べます。
便中抗原測定法
患者様の便を採取して、便中のピロリ菌の有無を検査する方法です。
ピロリ除菌治療と流れ
ピロリ菌除菌治療
1次除菌治療:保険適用
2種類の抗生剤と1種類の胃薬を使用した検査です。
1日2回、朝食後と夕食後に服用し、これを7日間継続します。この治療で約90%の患者様が除菌に成功します。除菌から約2ヶ月経過後に除菌が成功しているかどうかを確認する検査(尿素呼気試験)を行います。
2次除菌治療:保険適用
1次除菌治療ではピロリ菌の除菌に成功しなかった場合、2次除菌治療を行います。2次除菌治療を受けることで約95%の患者様が除菌に成功します。2次除菌治療では、1次除菌で使用した抗生剤のうち1種類を変更します。
1日2回(朝食後と夕食後)の服用を7日間継続します。
3次除菌治療:保険適用外
3次除菌まで行うのは、全体の1~3%の方です。3次除菌以降の治療は保険適用外となります。保険適用外となるのは、1次除菌や2次除菌とは異なり、意見の一致した除菌方法が決まっていないからで、実際には治療方法はたくさんあります。
2次除菌でも成功しなかったり、3次除菌が受けられずお困りになったりしていらっしゃる場合は、お気軽に当院にご相談ください。
ピロリ菌除菌治療の流れ
Step1薬剤の服用
2種類の抗生剤と1種類の胃薬を1日2回(朝食後と夕食後)に7日間服用します。抗生剤の使用によって、腸内細菌のバランスが乱れ、下痢になることもあります。
起こる可能性のある副作用
- 味覚の異常(約30%)
- 下痢(約13%)
- じんましん(約5%)
- 肝機能障害(約3%)
- アナフィラキシー(重篤なアレルギー・息苦しさ・薬疹など ※極めて稀な副作用となります)
Step2除菌判定
当院では、除菌終了後2~3か月後に尿素呼気試験によって除菌の成功・不成功の判定を行います。
尿素呼気試験の当日は、朝から食事を摂らずにご来院ください。(水・お茶はOK)。
Step3(1回目で除菌不成功の場合):2回目の除菌治療
1回目の除菌治療で、約75~90%の患者様が除菌に成功します。1回目の除菌治療ではピロリ菌の除菌ができずに終わった場合でも、2回目のピロリ菌の除菌治療を行うことによって、約95%の患者様がピロリ菌除菌に成功しています。
2回目の除菌治療では、1回目の治療時とは別の種類の抗生剤を使用します。
Step42回目の除菌判定
1回目の除菌判定と同様に、2回目の除菌治療後2ヶ月後に尿素呼気試験により除菌の成功・不成功の判定を行います。2回目の除菌治療でも除菌できなかった場合は、3回目以降の治療のご希望を伺います。3回目以降の治療は保険適用の対象外となりますので、あらかじめご了承ください。
Step5定期的な胃カメラでのがん検診
ピロリ菌は除菌すると胃の中から完全にいなくなりますが、除菌してもピロリ菌により炎症を起こした部分は完全には改善しません。
除菌したからと言って安心せず、引き続き定期的に検査する必要があります。